大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

大阪地方裁判所 平成11年(ワ)5528号 判決 2000年3月30日

甲事件原告

喜春運輸株式会社

被告

柳川千春

乙事件原告

兵庫県共済農業共同組合連合会

被告

喜春運輸株式会社

ほか一名

主文

一  甲事件被告は、甲事件原告に対し、金三七六万五六七四円及びこれに対する平成九年四月一四日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  乙事件被告らは、乙事件原告に対し、連帯して金一八万七三五〇円及びこれに対する平成九年五月一五日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

三  甲事件原告及び乙事件原告のその余の請求をいずれも棄却する。

四  訴訟費用は、甲事件乙事件を通じ、これを二分し、その一を甲事件被告柳川千春及び乙事件原告兵庫県共済農業協同組合連合会の負担とし、その余を甲事件原告兼乙事件被告喜春運輸株式会社の負担とする。

五  この判決は、第一項及び第二項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

一  甲事件

甲事件被告は、甲事件原告に対し、金七九一万二二〇六円及びこれに対する平成九年四月一四日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  乙事件

乙事件被告らは、乙事件原告に対し、連帯して金三七万二六六五円及びこれに対する平成九年四月一四日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

本件は、甲事件被告柳川千春(以下「柳川」という。)運転の普通乗用自動車と乙事件被告濱田勲(以下「濱田」という。)運転・甲事件原告喜春運輸株式会社(以下「喜春運輸」という。)所有の大型貨物自動車とが衝突した事故に関し、<1>喜春運輸が柳川に対し、民法七〇九条に基づき、損害賠償を請求し(甲事件)、<2>柳川との間で共済契約を締結していた稲美野農業協同組合との間で再共済契約を締結していた乙事件原告兵庫県共済農業協同組合連合会(以下「県共済」という。)が濱田及び喜春運輸に対し、商法六六二条一項類推ないし不当利得(選択的併合)に基づき、損害賠償ないし不当利得返還請求をした(乙事件)事案である。

一  争いのない事実等(証拠により比較的容易に認められる事実を含む)

1  事故の発生

左記事故(以下「本件事故」という。)が発生した。

日時 平成九年四月一四日午後一時五〇分頃

場所 兵庫県加古郡稲美町国岡三丁目六番地の六先路上(以下「本件事故現場」という。)

事故車両一 普通乗用自動車(姫路五九た一三〇四)(以下「柳川車両」という。)

右運転者 柳川

右所有者 柳川

事故車両二 大型貨物自動車(神戸一一く九五〇一、神戸一一け九五九七)(以下「喜春車両」という。)

右運転者 濱田

右所有者 喜春運輸

態様 出合頭衝突

2  柳川の責任原因

本件事故は、信号機のない交差点において、交差点を東進中の喜春車両と一時停止標識のある南北道路を北進中の柳川車両とが出合頭に衝突したというものである。

柳川には、一旦停止し安全を確認すべき注意義務があるにもかかわらず、これを怠り、漫然と進行した過失がある。

3  喜春運輸の責任原因

濱田は喜春運輸の従業員であり、本件事故は被告会社の事業の執行中に発生したものである。

4  県共済の支払

柳川は、稲美野農業協同組合との間で柳川車両について車両共済契約を締結していた。そして、稲美野農業協同組合は、県共済との間で再共済契約を締結していた。

県共済は、柳川の損害を填補するため、平成九年五月一四日、柳川に対し、共済金として九二万一九〇〇円を支払った。

二  争点

1  本件事故の態様(濱田の過失)

(柳川及び県共済の主張)

喜春車両は、大型トレーラーであり、急停止が困難な構造であるから、信号機のない交差点では、普通乗用自動車以上に減速して進行すべき注意義務がある。それにもかかわらず、喜春車両は、本件事故当時、制限速度を時速一〇キロメートル超えて走行しており、少なくとも濱田には三五パーセントの過失がある。

(喜春運輸及び濱田の主張)

柳川は、一時停止規制を看過し、時速約三〇キロメートルで交差点に進入したものである。

本件事故は、柳川の全面的な過失によるものである。

2  喜春運輸の損害

(喜春運輸の主張)

(一) 修理費 五〇六万六〇四六円

(二) 休車損害 二一二万六一六〇円

(三) 弁護士費用 七二万円

(柳川の認否及び反論)

否認ないし争う。

喜春車両の破損箇所のうち右前部以外の部分は、同車両の鉄板が荷崩れを起こしたことによるものである。この程度の急停止で大きな荷崩れを発生させるのは、運転者の積載方法に問題があったからであり、二〇トンもの鉄板を固定するには車両左右への脱落防止だけでなく、前後方向へのずれ込み防止のため、前後方向にも固定する作業が必要であった。したがって、喜春車両の修理費、休車損害のうち、車両右前部以外の修理に必要な修理費及びその修理のために必要な期間の休車損害は、濱田の過失によるものであり、柳川の過失行為と相当因果関係のあるものではない。仮に相当因果関係が認められるとしても、柳川の過失による部分はせいぜい一〇パーセント程度にとどまる。

(喜春運輸の再反論)

濱田は、鉄板を積み込む際、台車の四ケ所の隅に角材を立てた上、鉄製のワイヤーロープを掛け、さらにチェーンブロックでワイヤーロープを締めることにより鉄板の二ケ所を固定していた。本件事故に限らず、台車の前方から後方にかけて固定する措置を講ずることはない。このように濱田は鉄板の固定方法として通常求められる必要かつ十分な方策を講じていたのであるが、本件事故においては予期できない大きな荷重がかかったことにより、一部の柱が湾曲したり折れたりして、ワイヤーロープが切れたりしたために鉄板が前方に押し出されたのである。したがって、喜春車両に生じた損傷はすべて柳川の過失によるものである。

3  柳川の損害

(県共済の主張)

(一) 車両損害 八五万円

(二) 運搬費用 二万九四〇〇円

(三) 臨時費用 四万二五〇〇円

(四) 弁護士費用 五万円

(喜春運輸及び濱田の認否)

不知ないし争う。

柳川車両は、本件事故によって経済的全損となったものであり、時価額は七二万円である。

臨時費用は、本件事故による損害賠償の範囲に含まれない。

第三争点等に対する判断(一部争いのない事実を含む)

一  争点1について(本件事故の態様)

1  前記争いのない事実、証拠(甲二1ないし5、濱田本人)及び弁論の全趣旨を総合すれば、次の事実が認められる。

本件事故現場は、兵庫県加古郡稲美町国岡三丁目六番地の六先路上であり、その付近の概況は別紙図面記載のとおりである。本件事故現場は、南北方向の道路(以下「南北道路」という。)と東西方向の道路(以下「東西道路」という。)とが交わる信号機のない交差点(以下「本件交差点」という。)内である。南北道路は、制限速度が時速四〇キロメートルと指定され、本件交差点手前に一時停止標識が設置されていた。他方、南北道路は、制限速度が時速五〇キロメートルと指定されていた。

柳川は、平成九年四月一四日午後一時五〇分頃、柳川車両を運転して南北道路を北進し、本件交差点に差しかかったところ、一時停止標識を看過し、一時停止を怠って左方道路の安全を確認することなく、時速約三〇キロメートルで本件交差点内に進入し、左前方約九・一メートルの位置に東西道路を時速約五〇キロメートルで東進していた濱田運転の喜春車両を発見し、急ブレーキをかけたが間に合わず、同車両に衝突した。

以上のとおり認められる。

2  右認定事実によれば、本件事故は、柳川及び濱田による交差道路の安全確認義務違反の過失が競合して起きたものと認められるところ、右事故態様にかんがみると、柳川及び濱田の過失割合は、七五対二五と認めるのが相当である。

二  争点2について(喜春運輸の損害)

1  損害額(過失相殺等前)

(一) 修理費 五〇六万六〇四六円

証拠(甲三、四)及び弁論の全趣旨によれば、喜春車両は、本件事故により、修理費五〇六万六〇四六円を要する損傷を受けたと認められる。

(二) 休車損害 一四四万円

証拠(甲五、八1ないし6、喜春運輸代表者本人)及び弁論の全趣旨によれば、喜春車両の休車期間は本件事故後の四五日間であり、同車両が休車することによる一日あたりの損失額は三万二〇〇〇円であると認められる。したがって、休車損害は、一四四万円と認められる。

2  寄与度減額

証拠(甲三、四、六、七1ないし26、濱田本人)及び弁論の全趣旨によれば、<1>本件事故当時、喜春車両には二〇トンの鉄板(長さは一定ではない。)が積まれていたこと、<2>濱田は、鉄板を積み込む際、台車の四ケ所の隅に角材(スタンション)を立てた上、鉄板の前側一ケ所及び後側一ケ所で横方向に鉄製のワイヤーロープを張り、さらにチェーンブロックでワイヤーロープを締めていたこと、<3>角材(スタンション)の間隔は、鉄板の幅よりも広く空いていたため、鉄板が前後方向に移動することを防止する役には立っていなかったこと、<4>喜春車両の破損箇所のうち右前部以外の部分は、同車両に積まれていた鉄板が前方に押し出されたことによるものであること、<5>喜春車両の破損箇所の主たる部分は右前部以外の部分であること、<6>右の積載方法では急停止すると鉄板が前方に滑り出て運転席を直撃するおそれがあり、危険であることが認められる。

右認定事実によれば、喜春車両における積載方法の不十分さが、本件事故と相当因果関係のある前記各損害の発生及びその拡大に相当程度寄与したものと認められるから、民法七二二条二項の類推適用により三割の寄与度減額を行うのが相当である。

3  損害額(過失相殺等後)

前記1の損害額の合計は、六五〇万六〇四六円であるところ、前記の次第で三割の寄与度減額、二割五分の過失相殺を行うと、三四一万五六七四円(一円未満切捨て)となる。

4  弁護士費用

相手方に負担させるべき喜春運輸の弁護士費用は、三五万円が相当である。

5  損害額(弁護士費用加算後)

前記3の損害額に弁護士費用を加算すると、三七六万五六七四円となる。

三  争点3について(柳川の損害)

1  損害額(過失相殺前)

(一) 車両損害 七二万円

証拠(乙四)及び弁論の全趣旨によれば、柳川車両は、本件事故により、経済的全損となり、時価額七二万円に相当する車両損害を受けたと認められる。

(二) 運搬費用 二万九四〇〇円

証拠(乙四)及び弁論の全趣旨によれば、柳川車両は、本件事故のため運搬費用として二万九四〇〇円を要したと認められる。

(三) 臨時費用 認められない。

臨時費用相当額が柳川に発生したことを認めるに足りる証拠はない。

2  損害額(過失相殺後)

前記1の損害額の合計は、七四万九四〇〇円であるところ、前記の次第で七割五分の過失相殺を行うと、一八万七三五〇円となる。

県共済は、前記共済金を支払ったことにより、柳川の喜春運輸及び濱田に対する損害賠償請求権を代位して取得した。遅延損害金の起算日は、共済金支払日の翌日である平成九年五月一五日である。

3  弁護士費用

共済契約に基づく代位取得した損害賠償請求においては、相手方に負担させるべき弁護士費用を認めることは相当ではない。

四  結論

よって、主文のとおり判決する。

(裁判官 山口浩司)

別紙図面 交通事故現場見取図

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例